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2012年12月1日

「奇跡の抹茶茶碗」

生きる勇気を与えた茶碗の物語

   

志野茶碗
「蓮鶴大姉を偲ぶ会」に展示された志野茶碗
 九月三十日に行われた「蓮鶴大姉を偲ぶ会」の遺品コーナーに、一点の志野茶碗が展示されました。蓮鶴先生が旅先で選んだというこの茶碗が、先の東日本大震災で被災された方に生きる勇気を与えました。
 岩手不白会所属の寄松久美子さんは、経営していた美容院と一切の家財を津波で失いましたが、大事にしていた志野茶碗をがれきの中から無傷で発見しました。「絶望の淵から生きる意欲がわいてきた」という寄松さんは、本年五月に美容院を再開し、見舞いに訪れた家元が、この茶碗に「希望」という銘を付け、箱書きを認めました。
寄松久美子さん
寄松さん 偲ぶ会にて
 八月二十九日の毎日新聞岩手版では、この茶碗を「奇跡の抹茶茶碗」として紹介しています。ここでは記事の一部を掲載します。また、江戸千家便覧『ひとゝき草』111号「不白会だより」では、被災後に岩手不白会の福士宗信さんが、寄松さんの慰問に避難所を訪れたときの記事が掲載されています。
 以下、毎日新聞岩手版 平成二十四年八月二十九日より抜粋します。
   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇
  それはまさに奇跡だった。震災から数日たった昨年三月十五日ごろ。津波で押し流されて見つかった友人宅の後片付けを手伝いに出掛けたその時、地面に伏した茶わんが目に入った。「もしかしたら」と、まみれた粉炭を手で払うと、器のぬくもりで一瞬にして分かった。どこにも傷はなかった。自宅兼美容院から約四百メートル離れた釜石製鉄所の通称中番庫。がれきの中で、持ち主を待っていた。(中略)
箱裏
江戸千家家元が認めた箱書
(クリックすると大きな画像で見られます)
 避難所に間もなく、同門の友人夫婦がお茶道具一式を携えて慰問にやってきた。茶会用の着物、お釜などのお茶道具も失うなど手足をもがれた日々にあって、茶わんと共に、あきらめかけた茶道に向き合わせてくれる一服のぬくもりだった。  家元が寄松さんが暮らす市内の仮設住宅を訪れたのは今年六月。借りて持ち帰り送ってきた箱のふたには「今尚 仮設住いなれど 再生を期すといふこの茶碗 希望のよすがになれと期す 名心庵」と記されてあった。寄松さんはいつの日か、盛岡の三田宗明先生など震災で世話になった人たちを招いてお茶事ができることを夢見ている。
新聞記事
毎日新聞岩手版 平成24年8月29日

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