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喫茶往来


 宗雪宗匠の呼んだり呼ばれたりの茶会の様子を紹介します。

八月訪問

拝啓 
 先日は私の不躾な訪問にもかかわらず、大変丁寧に貴庵をご案内いただき、心より感謝申しあげます。
 街中であることを忘れさせる閑静な空間に、質素で落ち着いた中庭が、肩肘張った私の心持ちを緩やかにし てくれました。一円庵では伝統をつないでいこうとされる川上様の心意気を感じ、花月の間では床の間に飾られた流祖不白、中興の祖七代の画像の二幅の掛け軸によって醸し出された清浄ながらも親しみ深い場の雰囲気に、居心地の良さを感じておりました。
 川上不白は俳人でもあったとのこと。私の祖母の曽祖父に、仙台藩白石城主片倉小十郎の家老日野甚五左衛門という者がおります。この者は白石城の千手院の次男に生まれ、日野家へ養子に来ました。実父が隣々舎麦羅(岩間清馨)、実兄が松窓乙二(岩間清雄)という俳人でした。彼等の在世期間が川上不白と被っておりますので、もしかしたら江戸や東北での接触があったのではないかと考えると、これもまた川上様との面白いご縁を感じざるを得ません。
 所でお預かりしております車輪石を天理参考館にて開催する来年の企画展に出品させていただく件につきましては、後日担当者よりご連絡させていただくことになるかと思います。よろしくお願い申し上げます。
 令和二年八月五日
                  奈良県橿原市   小栗明彦

「行雲流水」

 スナップ句をありがとうございます。いつも御心にかけていただいて御礼申し上げます。
 御句に接するとその自然な流れに温かい思いになります。私の結社の俳句は、かなり技巧的ですので、こういう暖かい静かな気持ちになれることはめったにありません。
 特に好きな句をいくつか抽かせていただきます。

  あの蝉のひとつひとつに生涯かな

 今年は蝉を聴くのも短い間でした。あの声のひとつひとつが七日間の必至の命の叫びだと知りました。

  中置の風炉釜ひとつ恬として

 大きな鉄の破れ風炉、風炉と釜が一体の鉄の銹びた塊となって。あたかも床几に腰掛けた戦国武将の趣き。

  思いの外 小さく白き今宵月

 今年の名月は私共も淀川の堤防から見ましたが、本当に思いの外、小さく白く頼りな気でした。

  オンライン独逸米国 秋茶の湯

 このコロナの時期、茶会が全て無くなる中、茶事に四回呼ばれました。一盌に一献に心をこめ亭主にも客にも気迫がみなぎる中、心安らかなひととき、戦国の世の茶もこんなのだったのかしらと、ふと思いました。
 オンラインの茶も時空を越え、世界はひとつに。このコロナで茶道界もどう変わっていくのでしょうか。
 いつか宗家の月釜に伺うのが私の夢です。今後共、よろしくお導き下さいませ。宗匠のお優しさに甘え、さかしらな事をつらつらと書いてしまいました。ご容赦下さいませ。ありがとうございました。  かしこ  十月二十日                     千乃じゅん

修了証

 学生に「修了証」をご送付いただき誠に有り難うございました。
 この度ご理解戴きましたSさんは、二〇一一年三月十一日の東日本大震災による原発事故で家族七名、やむなく福島から山形へと県外に避難を余儀なくされ、大変なご苦労がおありだったと思いますが、漸く七年前に私どもの近所に定住されたご家族のお子さんです。
 四人兄弟の二番目で、スポーツ熱心な男勝りの元気な女の子です。
 親御さんから「お茶でも習ったら、もう少し女性らしい子供になるのでは……」と近所の私どもを訊ねて来られたのがご縁でした。
 最初は正座もままならず、クラブ活動の後で腹ぺこでも、いつも明るい笑顔で頑張ってこられた姿に私達も元気をいただくことができました。
 変化の激しい時代、生活様式も更に大きく変わって行くことでしょうけれど、この茶の湯を通じてほっこりとした優しい心を、少しでも地域の皆さまと共有し伝えて行けたらと思っております。
 ご無理なお願いをお聞きいただき、心より感謝申しあげます。
 オンライン教室、楽しく拝見させていただいております。
 まずはお礼まで   かしこ
 十二月十日                     宮迫和雪

岩手オンライン研究会

 岩手山は裾野まで白くなり、いよいよ本格的な冬の到来となりました。本当に寒くなりましたが、宗匠、お変わりございませんか。先日のリモート研究会、お疲れさまでした。とても素晴らしかったです。岩手不白会の皆さんも大変喜んでいました。
 服紗捌き、茶筌通しなどの小習いも、宗匠のお手本を拝見してから岩手の面々を見ますと、それぞれ独特というか、自己流というか、おもしろいもので、みなさん大いに反省していました。
 私は、いつも宗匠のお点前に近づきたいと思っていますが、奥様との一客一亭、素晴らしかったです。息の合った間合いで茶を楽しみ、互いに信頼している姿がとてもよく表れていて感心しました。
 亭主は客を思って美味しい茶を一心に点てる。客は亭主の心を察して茶をいただく、一客一亭の神髄を見た感じでした。ありがとうございました。いつか家内と宗匠のような一客一亭ができるよう精進したいと思います。
 コロナ禍が早く過ぎる事を祈るとともに、来年こそリモートではなく、盛岡での生の研究会ができるよう願っています。
 十二月十日                     福士宗信

御所柿

 十二月十四日、星野は小雪が舞いました。東京上野もさぞやと思います。
 思いついて御所柿を一つ送ります。私の在所は因州因幡の船岡大江の郷というところです。生家の裏庭に大きな柿の木が四、五本とあります。日々の暮らしの悲喜こもごもを見守ってくれたと思っています。
 それはともかく柿は果実の王者とも言われます。初冬に旨味ものってきたかと思います。
 今年は新型コロナに悩まされ、たのしみにしていた口切りの茶事は流れ、小窯の庭での笛の音も聴けませんでした。さみしいことでした。こちらへおいでになれなかった宗匠も

家元預け壷の口切り 於星野製茶園

また、と察します。慰めにもなりませんが柿喰へばなんとか 私のふるさと自慢の御所柿、どうぞ一つ召し上がって下さい。
 いつも届くたびに新鮮な感興をうける『ひとゝき草』はもちろん、最近のスナップ句をいただきました。
 かたじけないやら、うれしいやら、ありがとうございました。いまや遠く離れていても確かに耳の奥に茶の風が吹いてきます。それもこれもお茶は人生の味わい、またお会いできるのを楽しみにしています。
 十二月十三日
   星野 山本源太

十一月の月釜

謹啓 開炉の候 宗雪宗匠におかれましては益々ご清栄の御事とお慶び申し上げます。
 本日は社中と共に月釜に伺えました事、御礼申し上げます。
 光廣の筆のように闊達な宗匠の茶の湯に触れられました事、 また頂戴いたしました濃茶の温かくたっぷりと甘味の在る味わいに茶の湯の何より大切な事を教えていただきました。我々が目指す茶の湯の姿を見せていただきました。重ねて御礼申し上げます。
 世の中の状況にもよりますが、来年の春頃、鎌倉にお出ましいただけますと皆喜びます。その時を楽しみにしております。
            敬具
 十一月十一日
          小林徹信

信濃より

 コロナ禍とやらでお目にかかれず淋しい限りです。オンライン茶会を楽しみにね。
 「行雲流水」拝読。立ち雛のかわいいこと。

 ありのままで良いと此頃日向ぼこ
 春立てど暫く鬼の居候
 風に揺れて池の柳に春徴す
 日が差してまた風花の越後かな

 何か人はだの温かみを感じさせる句ばかりですね。
 この辺りも今年は例年よりひと月早く桜の蕾がふくらんでいます。軽井沢の桜も見事ですよ。
 四月十二日                    足立淳雪拝

伊丹より

 本当に春めいてまいりました。祖父の日記には必ずその日に咲いた庭の花が記されていたのを思い出します。ただ、今日などどのように記すのでしょう。「白木蓮、百の莟ふくらむ」「椿、白五輪、ピンク 屋根の縁を覆う、大輪の紅満開」「うぐいすかぐら七分咲き」……、いえ、いえ、確か、花の名前だけが並んでいたようにも思えます。
 今年の節分はまさに「鬼は外 本気で叫ぶ寒夜かな」でございました。私事ではございますが、母が二月半ばに転倒し、大腿骨骨折にて入院手術。(九十五歳でございます)。私は先ず病院に寄ってのち柿衞文庫へ出勤する毎日でございます。とはいえ、コロナのために面会はできないのですが……。
 私、稲畑汀子先生からお誘いを受け、先生のご自宅での句会に参加させていただいておりますこと、申し上げておりましたでしょうか。母のことがありバタバタする中、汀子先生からお元気をいただきたいと、三月の句会にも出かけたのでございます。その折の私の句で特選となった句が「目印はミモーザ芦屋平田町」。ここで問題となったのが「ミモーザ」です。汀子先生は採択して下さったのですが、語調を合わせるため「ミモザ」を「ミモーザ」と詠むのはどうだろう、例句はあるのか、という意見が出て、私は確かそのように詠んだ句があったと思うといい、結局特選になったのですが、家へ帰り、碧梧桐が作っていたはずと、図録「阪神間と河東碧梧桐—川西和露・麻野微笑子とともに」から探し出し、ホッとした所でございます。「ローマの花ミモーザの花其花を手に」。 たった今、句友から電話があり、山口青邨にも「ミモーザの花の下にて海青き」という句があるとのこと。来月の句会で汀子先生にお知らせしようと思っております。三月の汀子先生の句会はいつもお雛さまが飾ってあって明るいのです。
 宗雪宗匠もどうぞ良い春をお過ごし下さいませ。

  病室の窓に遙けき春の山

 三月九日
   柿衞文庫  岡田 麗

熊野桜

川上宗雪さま
 スナップ句ありがとうございます 最近の家元の様子が手に取るようにわかります。
 もう少しの我慢で鬼も退散してくれると良いのですが
 熊野は今、普通の桜より早く咲く山桜が満開です。三年前百年ぶりに新種と認定された熊野の山桜が「熊野桜」と命名されました。
 当地の酒造から同名のお酒が春限定で発売されているので少しお送りしました。
 上野の桜を愛でた後、まったりとお召し上がりながら時期をお待ち下さい!
 三月十一日                  新宮 瀬古伸廣

熊野桜

貞山堀

 「行雲流水」ありがとうございました。作品の一句一句から川上さんの日々が浮かび上がってくるようです。昨年は一度もお会いできなかったため、一層その感を強くします。
「見渡せば裸木ばかりの上野山」「見上ぐれば寒月絡む椋の先」厳冬の上野の森の光景ですね。「夜や寒き腰も疼くわ七十五」、体操に余念がない川上さんでもそうですか。
 コロナ禍中のステイホームで小生も日々足腰の弱りを実感しております。
「鬼は外本気で叫ぶ寒夜かな」〝本気で叫ぶ〟に実感がこもります。
「ありのままで良いと此頃日向ぼこ」、わかりますが、〝日向ぼこ〟はダメですよ。川上さんらしくない。前向きに、前向きに。さて昨日十一日は大震災から十年目。各地で慰霊、追悼の祈りが捧げられました。二月に妻と二人で久し振りに、宮城の被災地沿岸を車で巡りました。荒浜、閖上、亘理は危険区域に指定され、全て更地や公園となり、人家が一つもなく、かつての集落は消えていました。政宗が開削した貞山運河は修復が成り植林松の若木が広がっていました。かつてのクロマツの林が再生することを願い、希望が湧いてきました。桜の開花も間近です。御自愛の程。

 三月の沖へバッハのアリアかな

 三月十三日                 仙台 佐藤憲一

ありのまま

 拝復 お手紙頂戴し恐縮に存じます。変わらず忙しく各地を回られておられるご様子、ご壮健の趣き何よりに存じます。
 俳句お送り下され、日常を楽しまれているのが、よく伝わり、羨ましい限りです。
 俳句は人の好みにより、評価も違うかと思われますが、御句の内、私が面白く拝見したのは以下でございます。
 俳句は前書きがあることで、深く興趣を増す場合があると昔、教わった覚えがありますが、「コロナ禍中」の前書きの「鬼は外本気で叫ぶ寒夜かな」は前書がよく効いている句と感心いたしました。「日が差してまた風花の越後かな」は、前書きの有無に関わらず、佳句かと存じます。「てっぺんに鵯の止まりて冬欅」も良い写生句かと存じます。また「ありのままで良いと此頃日向ぼこ」は、日常の素直な感覚が、一茶風の表現で、面白く感じられました。一方「名残惜し」「梅一輪」の句などは実感でいらっしゃいましょうが、表現が少々月並みに感じられます。妄評お許し下さい。また拝見するのを楽しみにしています。
 私共、蟄居状態で無聊に過ごしており、また改めてお招きしたいとは思っているのですが、季節に応じた趣向がなかなか思い浮かばず、延び延びになっております。今年中にはお招きしたいと考えておりますが、その折はご光来いただければ幸甚です。
 まだまだ、コロナも遠ざからず、暖かさも不足な昨今、ご健康にご留意下さい。末筆ながら奥様によろしくご伝声下さい。     敬具
 令和辛丑弥生上旬    
                        村上瑛二郎 拝


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