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喫茶往来


 宗雪宗匠の呼んだり呼ばれたりの茶会の様子を紹介します。

湘南倶楽部

 今回は湘南を離れ東京上野へ。満開の桜と外国語が飛び交う公園を抜け、初めて江戸千家の門を潜ったところは別次元の世界でした。そこには家元好みの風情を作り出すための多くの仕掛けが……。待ち合いで家元から昔の上野の様子など伺い、一円庵での緊張する茶事と続きましたが、家元から点てていただいた濃茶の美味しさが心に響く一日でした。
    三月二十八日               白井誠一

南半球でのお茶

 ニュージーランドに帰国して十五カ月がたったところで日本から嬉しい情報が届きました。家元が友達と一緒にMilford Trackを歩いた後、我が家にお寄りになる、というのです。宿泊先はTaurangaというニュージーランドでは五番目に大きい都市です。我々が住んでいるKatikatiはそこから車で四十分ぐらい離れていて、山と海に囲まれた小さな町です。
 さて、当日二月十一日Tauranga空港で到着を待っていたのですが、南太平洋で発生した大きなサイクロン(台風)の影響で北島のほとんどのフライトがキャンセルとなってしまいました。再会は難しいと思っていたところ、驚いた事に東京と静岡くらいの距離を、タクシーで来る、という連絡を受けたのです。約束をこれほどまでして守るということは、とても心を動かされる出来事でした。
 「よく晴れた日の美しい景色・山・海のすばらしいハーモニーを鑑賞していただく」という我々が一番望んでいたおもてなしは残念ながら変更せざるを得なくなりました。 それでもちょっとした渓谷を散歩したり海辺で昼食をとったり、我々にとって楽しい時間が過ぎてゆきました。
 我が家での夕食後、濃茶そして家元の提案で薄茶の花月を楽しむ事になりました。同じ人が何度も同じ役割に当ったり皆で大笑いしながら ニュージーランドの夜が更けてゆきました。
 最後に家元が横笛を演奏してくれ、日本の調べが南十字星の夜空に静かにしみわたったのです。

 追伸
 私は今家元から受けた様々のアドバイスを思い出しながら隣人を前にテーブル茶のお点前をしています。彼等にとってこの静けさ、この日本の伝統の良さが国境を超え、心で分かってくれています。こうして国から国へ、世代から世代に受次がれてゆく、何というすばらしい事でしょう。
  四月二十二日            メイソン・シェリン
                         阿部秀昭

カティカティにて

芝浦会

 過日は御多忙中をまたもプラテシアにお出掛け下さり、まことに有り難う存じました。すべてに暖かいお心をいただき、感謝申し上げております。皆様とてもお喜びでよろしく申されていらっしゃいます。川又様よりお預かりしたお写真をお送り致します。
 自分なりに元気に明るく生き切ることの大切さを皆様よりお勉強させていただいて居ります。
 桜も終わり定まらぬ不順な日々が続いておりますが、くれぐれもご自愛下さいまして御活躍を心よりお祈り申し上げます。かしこ
  四月四日                  原田恵美子

めずらしいお方のお点前

天空茶会

 地上百七十メートルの天空より見下ろす春霞に包まれた琵琶湖を御床に御茶一服差し上げたく催した天空茶会。琵琶湖周辺のやまやまのあちらこちらに点々と咲き誇る山桜、竹生島、佐和山城跡。この地で日本の歴史を築き散った先人達を懐古し、また現代に生きる私達の未来を思う一日となりました。家元、雲鶴先生、遠路お忙しい中ようこそ天空茶会にお出ましいただきました。
  五月五日                   内山宗邦

F社 琵琶湖本社研究塔

川上宗雪先生の茶室を訪ねて

 やわらかく落ちてくる雨がだんだんと本降りになってくるという平日午前中の早い時間に、久しぶりに不忍池のほとりにある池之端へ出かけていった。目的は師匠を訪ねることであった。師匠といっても、学問の恩師ではなく、お茶の先生である。江戸時代から続く、江戸千家の家元川上宗雪先生のこと。三十年ほど前、福岡県は久留米市の茶会で初めてお目にかかり、私が上京してからご縁をいただき、しばらく稽古に通っていた。私にとって、とても懐かしい方である。
 池之端の茶室は幕末に建てられた歴史的建造物で、露地には折々の花をつける木々があり、苔がしっとりと生す庭石がすこぶる美しい。巷の賑わいとは無縁の、東京のなかでも五本の指に入る私のベストスポット。ましてや天気雨を思わせるような春の明るい曇天に映える晩春の佇まいといったら、いつまでもこの清浄な空間に浸っていたい。
 先日何年かぶりに宗匠に再会した。偶然、東京国立博物館で行われる特別展「名作誕生」の内覧会で、大勢のなかでわざわざ私を見付け、声を掛けてくださった。
 数日後には「月釜」という、少人数で気楽に一献がいただける会があるので、お出でよとのこと。即座に「はい」と応じた。
 実は七年ほど前、一時病気になったことがきっかけでお稽古に行けなくなり、治ってもなお日々の忙しさにかまけて、ついに稽古から足が遠のいてしまっていた。。
 当日十時半頃に伺うと、客人が私一人と分かった。もったいないという気持ちと、宗匠の話を独り占めできる嬉しさが半々に混ざり、緊張もしたが、寄付で待っている間に宗匠が白湯を持って来られ、二人で飲みながら壁に掛けられた正岡子規の手による短冊に見入っていた。晩年で病身の子規。天気のいい日に急に思い立って本所茅場町立川に住む弟子の伊藤左千夫を訪ねた時の模様。子規は半日遊んで根岸へ帰る。

 短冊は、東京で牛乳製造を生業とする左千夫への、ユーモアを交えたメッセージであった。
 「左千夫ぬしの住家をおとづれて/たて川の牛飼人をおとなへバ留守の門べに柳垂たり/升」。
 茶室に移ると、今度は炉の炭点前。赤々と燃える炉の中に湿り灰をぱらぱらと落とし、練香をそっと置くと薄暗い部屋中に湯気と共に甘い香りが充満する。床の間には、子規が愛してやまない与謝蕪村による、弟子高井几董に宛てた自筆の手紙が掛かっている。
 明日は京都で句会の予定。もし「横に降(る)雨ならバ御断」り、「真すぐの雨ならバ出席」しようと蕪村が告げた上で、有名な一句を記す。「春の夜や宵曙の其中に」。
 茶室の屋根に当たる雨の音からすると、横なぐりではなくまさに「真すぐの雨」が降っている。部屋を隔てて、時代を超えた待ち、待たせる人々の息づかいと間柄が、ひしひしと胸に染みいってくる。同時にこの一瞬の巡り合わせに、私は満腔の感謝を覚えた。
             ロバート キャンベル
     (国文学研究資料館長 日本文学研究者)

北國新聞
 2018年4月27日朝刊
「泣き笑い 日本のツボ」 より

沖縄 識名園茶会

  念じたる梅雨の晴間や識名園
                           ひろし
 小生未だ、識名園の中にいるようです。
 開け放たれた部屋から見える世界遺産の名園、沖縄の風、電気しか使えない部屋の水屋で茶碗を洗う水まで持ち込んで、気持ちよくお茶会を進めて下さった沖縄の方たちのご協力、感謝です。
 すべてうまくことが運んで、沖縄の皆さんも楽しい雰囲気のお茶会を喜ばれていたようです。識名園のお茶会の発想と実現化、感服しています。
   冊封使と同じ茶会や風光る
                          沢田宗彦
   五月二十九日

 雨期の沖縄にしてはめずらしい程の青天で、たまにそよそよと清々しい風が御殿うどぅんを吹き抜けていました。そのような中、家元自らがお点前をされたお茶会が催されました。
 御殿、それは那覇市真地にある廻遊式庭園「識名園」の中にある建物で、その庭園は平成十二年に国の特別名勝に指定され、さらに同年ユネスコの世界遺産に登録された日本にも中国にもない琉球独自の工夫がなされた名園です。
 識名園は十八世紀につくられ、西暦一八〇〇年に冊封さっぽうのために来琉した冊封使を招いています。
 その冊封使一行は識名園に招かれ、「前の一番座」という部屋で茶や煙草でもてなされました。

國華清話会の皆様

 琉球における茶道は十六〜十七世紀にかけて日本との交流の中で伝えられ、西暦一六〇〇年には、和泉国は堺の出身で、千利休の流れを汲むという僧侶の喜安が渡来しています。
 今回、お茶会が催されたのは、まさに件の「前の一番座」でした。私は、なにか不思議なご縁を感じました。
 出席された皆様も充実した歴史の一コマを感じたようですと、家元も文にしたためていただき、立ち会った私も嬉しく思っています。
 もし、沖縄にいらっしゃる折には、那覇市真地にある「識名園」に是非お立ち寄り下さい。
                   那覇市文化財課 立住育也

 先日は識名園でのお茶会の手伝いと御茶を頂戴する機会に与り誠にありがとうございました。
 お心の通い合うご友人方と和やかに交わられるお姿を水屋から拝見し深く感動いたしました。そのお姿は前面に広がる識名園の景色と一体化し、心地よい風や鳥のさえずりと相俟ってまるで自然空間の中にいるような情景でした。お茶を楽しむとはこういうことをいうのかもしれないと感じ入った次第です。
 茶籠の魅力も再発見する機会となりました。自分なりの楽しみ方を模索していきたいと思います。
 最後になりましたが、御高著『茶の湯のすすめ』を頂戴し感謝申し上げます。どの月も興味深く拝読致しました。殊に花々に心を奪われ、机上に置いて楽しませていただいております。
                      津堅社中 土屋恭子


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