江戸千家 > 会報から(134号) > 水屋日記(9) 「小習 ⑵」

■水屋日記 第9回

「小習 (2)」

川上博之

 前回に引き続き、茶席の準備片付けにおける道具の扱いについてです。今回は釜です。尚、釜師である長野烈氏に監修をいただきました。

【釜の準備】

① 水屋の簀子すのこの上に釜据えを置き、その上に釜を置く。

② 水を内外ともにかけ、全体をすすぐ。

③ 中に溜まった水を捨てる事で埃なども除く。
 この際、素手で扱うのを避ける習慣があるが、 ハンドクリームなどがついておらず綺麗に洗ってあれば、素手で持ってひっくり返して問題ない。気になるようなら布巾や軍手などを使うと良い。鐶を使ってひっくり返すのは、鐶付を傷めるので良くない。

④ 湯または水を入れる。八割程度まで入れる。冷たい釜に直接熱湯を薬缶から注ぐと傷めてしまうので、底に五センチ位水を張っておき、柄杓を底まで差し込み、合の部分で湯を受けながら入れていくことで破損を防ぐ方法がある。

⑤釜を布巾の上に乗せて底の水を拭き取ってから点前座の風炉や炉にかける。


【釜の片付け】

① 準備の①と同様に釜を置く。

②蓋を外し、固く絞った布巾で表裏共に拭き取る。 蓋に水をかけると摘みの座金下部に水分が溜まって緑青や湯垢の元になってしまう。

③ 中の湯を掬って釜全体にかけていく。
 

④釜に残った湯をたらいに空ける。素手では熱くて持てないので、布巾や軍手を使って持つと良い。

⑤ 釜内部の湯を空にしたらそのまま逆さ向きで釜据えの上に置く。

⑥ 盥に移した湯を釜底にかけながら、釜底洗いで炭のすすを洗い流す。

⑦ 釜を元の向きに戻し、内部に湯が少し残っていれば布巾を中に入れて吸い取る。

⑧ 炭を片付けた炉または風炉に空の釜を戻し、余熱で水分を飛ばす。残り火は小さな炭の欠片も殆ど無いくらいで良い。


【普段のメンテナンスなど】

・炭点前でする事もあるが、湯が入った熱い釜を茶巾で濡らす行為は釜に良くない。水分の急激な蒸発を頻繁に繰り返すと表面に白い湯垢を生ずる。

同時代の釜だが、左側のみ白く変色してしまっている

水屋鐶の比較

上が鉄、下が真鍮

真鍮しんちゅうの水屋鐶は使わない方が良い。柔らかい材なので鐶付が黄色く光るようになってしまう。鉄の鐶を使うのが良い。

・釜を仕舞う時には、布や綿、クッション材で包まないで、裸で箱に入れておく方が良い。包んだ布から湿気が釜に移ってしまうからである。唐銅や銅でできた蓋や風炉などは包んでも良い。鉄風炉の場合には中の灰をとってよく洗う。水または湯で洗ってよく乾かしてからしまう。

・長期間使っていなかった釜は、赤錆や釜内部の匂いが気になる事もある。その際には、まずはタワシで軽く洗う。その上で、水を一杯に張り、煎茶(ティーバッグ一つ分位)を七〜八時間ほど煮出す。湯が黒く変化していき、やがて釜の内側の鉄表面にうっすら黒い膜がはると良い。煮出しは風炉や炉を使って欲しい。炭が良いが電熱でも構わない。ただし出力が足りない時がある。スイッチの切り忘れには注意する。
 ガスコンロは炎の形が釜に残る、IHは釜の鉄内部の成分と反応して割れる事もあるなどの理由から適さない。

監修 長野烈(釜師)

様々な種類の釜や風炉釜を並べてご説明いただいた。

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