江戸千家 > 会報(126号) > 水屋日記(1) 茶杓を作る

■水屋日記 第1回

茶杓を作る

川上博之

 新たな連載として茶家の日常や茶席の裏側を書いていくことになりました。この紙面でこそ書ける話を載せていこうと思っております。

 夏の一時期は稽古が休みになります。その期間に茶杓を何本か削りました。茶杓はもしかすると、茶人の手作りが最も頻繁に使われる茶道具ではないでしょうか。茶杓削りの行程というと、私の場合は[竹を干して保管→鋸で切り、鉈で割る→水につける→熱で曲げる→紐で固定→削る]としています。
 左の写真は今回使った竹です。胡麻竹や煤竹などさまざまです。ここでの竹の選定が茶杓の景色を決定するわけですが、完成した姿を想像してわくわくする時間でもあります。「この模様が入るように切ろう」とか「ここを使うと隣の模様は削られてしまうから惜しいな」とか。
 切る箇所を決めたら、鋸で適当な長さに切断して、鉈で縦に割ります。薪割りのようなイメージです。竹を割ったようななどと言いますが、確かに筋に沿ってスパッと気持ちよく裂けます。その後、曲げるまでは水につけておきます。
いつもは蝋燭だが試しに炭火で熱を加えてみた。
 竹を曲げる時には蝋燭で炙りながら徐々に曲げていきます。この時の熱の加え方や力の入れ方で曲がり方が変わります。折れるような曲がり方だったり、緩やかな曲線を描くようだったり。曲がったら紐で固定して、竹が安定するのを待ちます。
 そして小刀で好きな形に削っていきます。竹は筋に沿って割れていきますから、太い方から細い方へ向けて刀を入れます。ミリ単位のわずかな差が意外と気になるもので、例えば〇・五ミリ幅を狭めただけでも印象がかなり変わります。形は好みによって様々です。私は利休形が好きです。
 フォーマルな茶会や稽古の場ではなかなか冒険しにくい事情もありますが、逆に日ごろはたくさん実験をするのが好きです。今回も水につける時間を変えて竹の反応をみたり、いつもは蝋燭の火で熱を加える所を炭火にしてみたりと試行してみました。結果としては水に長期間浸した方が、曲げる時しなやかになったような気がしました。
また炭火で熱した場合、蝋燭に比べて広範囲に熱が当たるので一点で折るというよりも櫂先全体をカーブさせるように曲げやすかったです。慣れた方は蝋燭でも熱し方を上手くコントロールできるようですが。
 できあがった中から二本ほど紹介してみます。左の写真、手前の方は私の好きな形のど真ん中を目指してみました。奥側の茶杓はちょっと遊びと試しで作った形です。下削りで長方形の竹ベラのような形にする事があるのですが、それを完成形としても面白いのではないかとふと思いついて。
 私は茶杓削りのように、その場に腰を据えて黙々と作業をするのが好きです。灰形や作陶などもそうでしょうか。いずれそのような話もする事があるかもしれません。

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