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■続ドイツからの便り 1■

インターネットの恩恵―江戸千家初釜をドイツで紹介

野尻 明子 (ドイツ在住)

VHS Cloud(ドイツ市民大学連盟クラウド)でのスタート画面

 今年三月、コロナ感染が収束せず、エアランゲン市(ニュルンベルクに隣接)の市民大学で三度目の対面式授業の中止が決定した時、「異文化交流」の担当者に、日本を紹介するオンライン講演を提案されました(ちなみに、総理府の統計によると、日本への旅行を繰り返す頻度が最も高い国民はドイツ人だそうです)。
 二〇〇二年以来茶の湯をドイツで紹介して来た私にとって、江戸千家の茶室の雰囲気を受講者に伝えられないことが悩みでしたが、折よく美しい家元の初釜の動画が二月に配信されていましたので、この機会をぜひ生かしたく思いました。
 Teezeremonie(「茶の湯」の独訳)なるものを全く知らない担当者を 「旅行ガイドは書店とインターネットで十二分に提供されている。一般の旅行者が見学できない茶の湯の世界を動画で見せて、日本独特の美意識と細やかな心遣いを紹介したい。コロナ禍で日本への旅行を断念した人達にとっても、印象深い日本への旅になるはずだ」と説得。お家元と新柳さんにビデオの共有をご快諾いただいたので、四月十日の午後二時から「日本のTeezeremonieの美」という題で九十分間、初のオンライン講演を試みました。
 担当者は、このようなテーマに参加者が集まるのか半信半疑で、当初参加者数を二十名に設定しましたが、ベルリンに住む娘も宣伝に協力、ドイツ各地とポルトガルの友人を合わせて五十九人の登録が集まりました。これは、オンラインでなければ望めなかったことです。
 「茶の湯を知っていますか」と「抹茶をよく飲みますか」というアンケートで導入、全く茶の湯を知らない人達のために「茶の湯とは何か」を簡潔に紹介、その後、静かな雰囲気をこわさないよう、要所要所で短い説明を入れながらビデオを再生してゆきました。
 一服のお茶を味わうために食事が供されることに驚いた人が多かったようで、講演の後、食材についていくつか質問と、次のような多数の感想をもらいました。
「とても面白かった」「感動しました。ありがとう」
「せわしいドイツ人の日常と全く違う安らかな世界」
「細部に込められる愛情の豊かさが印象的」
「コロナ禍の日常の疲れが癒された」
「リラックス・ピュア」
「本当の Teezeremonie を初めて見ることができて嬉しい」
「よい抹茶が買える店を教えて欲しい」
「江戸千家はいつ設立されたのか」
 開始前、参加者の「入室」を技術的にサポートしてくれた二人の有能な女性達も、この仕事が日本の茶の湯を知る機会になったことをとても喜んでいました。
 現在、ドイツ各地の七つの市民大学から、今年の秋冬学期にこのオンライン講演をプログラムに入れたいという希望が入っています。コロナ危機が去った後、東京を訪ねたドイツ人が、江戸千家の初心者向け講座に参加してくれることを願いつつ、オンラインの活動も続けてゆきたいと思います。
 ちなみに、対面式授業が許可された七月十日の講座では、新柳さん制作の動画で、ドイツの家庭でも可能な盆点てを紹介しました。

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