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■ドイツからの便り No.2■

●Teezeremonie (茶の湯)のイメージ●

野尻–クレル 明子(ドイツ在住)
茶の湯教授
ヴェルツブルク近くの禅の文化センター、Benediktushofで(2008/7)
ヴェルツブルク近くの禅の文化センター

 私は、会報102号の記事でお伝えしたように、公共の市民大学や教会等を利用して、ドイツの各地で茶の湯を紹介して参りました。市民大学は、ドイツで最も一般的で伝統のある成人教育機関ですが、それぞれの責任者を説得して茶の湯を紹介する講座を開設してもらうのは、必ずしも簡単なことではありません。首尾よく責任者の同意を取り付けたとしても、茶の湯の講座が市民大学のプログラムのどこに掲載されるかが、次の問題になってきます。通常、市民大学のプログラムは、様々な分野を合わせると、新書判一冊ほどのボリュームになりますが、茶の湯の講座が掲載されるのは、ほとんど例外なく「栄養と健康」の項目です。

 茶の湯を経験したことのないドイツ人は、それゆえに、「緑茶は健康に良い」「日本的なサービスと緑茶で、ストレス解消を図りたい」「正しい緑茶(煎茶)の入れ方を知りたい」「日本式ティーパーティーがどんなものか一度見たい」等の期待を持って参加します。そのような人達は、茶の湯の静寂や礼儀作法、抹茶の濃厚な味に驚き、がっかりして、中には、不快感を露骨に表したり、「日本人はお茶を飲みながら会話をしないのか。」という質問を執拗に繰り返す人もいます。このように、日常的な楽しみのみを期待して来る人に、「日常的なお茶の時間と異なる次元の喜び」は、理解してもらえません。

ヨガ教室で講座
茶の湯の紹介の講座–Ammarndorfという町のヨガ教室で(2008/11)
おいしそうにお茶を飲む
おいしそうにお茶を飲む受講者

 その対応があまりにも大変なので、ドイツ人の誤解を最低限に防げるよう、また、マナーの悪い人の参加を未然に防げるよう、講座の説明文を何度も書き変えるとともに、責任者にも、「芸術」か「禅」と関連付けて茶の湯の講座を紹介するよう頼みましたが、受け入れてくれた責任者はごく僅かです。その理由は、何処も同じ、「他の分類では受講者が集まらない」で、事実、「座禅」と並列して茶の湯の講座をプログラムに掲載してくれた市民大学では、目立って受講者が減りました。最低限の受講者数に達しない講座は、採算上中止となり、深い関心を持つ人たちも、半年先の次の学期まで機会を待たねばなりません。

 最近も、私の自宅から200km以上離れた町にある、大きくて贅沢なウェルネスセンター(コスメティックスタジオも併設)から、「十周年記念行事で、ぜひ Teezeremonieを披露してほしい。【リラックスと健康増進】のテーマによく合うと思う。」という依頼が来ましたが、断りました。キモノを着た日本人女性が、一方的に静かに優しくお茶をサービスすることを期待しているように感じられたからです。ちなみに、数年前に「ゲイシャ」という映画が上映された頃には、「ゲイシャが習うというTeezeremonie を一度見たい」という問い合わせの電話も何度かありました。

 その点、座禅やヨガ等を熱心に学んでいるドイツ人の多くは、「心身の深い落ち着き」といったテーマに平素親しんでいるので、茶の湯の世界にもあまり抵抗なく入り、和やかに楽しんでくれます。特に、隣の人に挨拶をしてからお菓子やお茶を戴くマナーが、とても新鮮で好ましく感じられるようで、大抵の人が笑顔になります。

 「謙虚」が弱者の態度として否定的に評価されがちなドイツ人社会では、安心して他者と親切にし合える場が、柔和なタイプのドイツ人の間で切実に求められていることを感じています。

【前回記事】…■ドイツからの便り No.1「ドイツ人に茶の湯を紹介する」


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